gayuu_fujinaの愚草記 (別館→本館)

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メイド・イン・ジャパンの「戦車」は薄すぎて使いものにならない まぐまぐニュース!

日本の戦車が日本製であるということ、みなさんはご存知ですか?「日本車は世界的に評価も高いし、日本製なら安心だ」と思ったあなた、ちょっと待って下さい。『異種会議:戦争からバグパイプ〜ギャルまで』の著者で軍事ジャーナリストの加藤健二郎さんは、日本工業が戦車製造で悩みどころとする、ある致命的な欠点を指摘しています。
(中略)
その日本工業の苦手種目とは「硬い硬い鉄」である。そう、日本の工業は、硬い金属の生産や加工においては、イタリアより弱い。(後述)
(中略)
戦車の製造において、硬い鉄を苦手としているという弱点を、柔らかい金属の精巧加工でカバーできるのであろうか。回答は「否」である。
(中略)
直撃弾をはじき返さなければ意味がない。直撃弾をはじき返せない装甲だとしたら、ハンパな装甲など装着せずに、車体を小型軽量にして機動力と視界をアップさせたほうがよいのかも。
(中略)
そのハンパな装甲を持っていて、視界が悪く機動力にも問題があるのが、戦車よりも兵員輸送装甲戦闘車両だ。兵員輸送装甲戦闘車両は、米国製のブラッドレーでさえ、増加装甲版をベタベタに貼りつけなければ、機関砲弾さえもはじき返せない。ましてや、RPGなどの対戦車兵器を食らったら…。
(中略)
「61戦車に、105ミリ砲弾を命中させると、戦車の砲塔は粉々に吹き飛んだ。あれじゃ、戦車の意味ないよ、と感じた」と陸自の2尉が言っていた。
(中略)
当時は「戦車の装甲は砲弾をはね返す」という前提で戦車部隊の運用
(中略)
装甲を優先的に装着するのは、戦車ではなく、兵員輸送装甲戦闘車両になるはずだ。
(後略)

http://www.mag2.com/p/news/140969

なに?またキヨ?
…と思ったわ。
ちなみに、この記者の人は以前も10式がTK−Xだった頃に見当違いな記事を書いて、某JSFの人にフルボッコにされた過去がある。
関連:戦場ジャーナリスト加藤健二郎氏による出鱈目な新戦車TK-X評 : 週刊オブイェクト
さて、今回のトンチンカン記事だが、装甲素材が「硬ければ硬いほど良い」なんてのは、見当はずれも甚だしく、素材技術に劣る中露韓では爆発反応装甲を、欧米や日本と言った素材技術に優れた国では、複数の装甲素材を使って、更には内部形状を工夫した複合装甲が主流になって居る。
つか、軍事技術の最先端の、戦車装甲の話をしているのに、畑どころか産地すら違う「タービン設計の機械設計者らと話してみた」というトンチンカンな取材っぷりも凄いあほらしいのだが…。
「硬い」だけの装甲で良いなら、アメリカみたいに「劣化ウラン装甲」でも着けてろって話である。
それに、兵員輸送車の様な軽装甲車両が、対戦車兵器の直撃を食らって大丈夫な事例なんぞ、あるわけ無いんじゃが…。
閑話休題(はなしはよこにおいといて)
61戦車って90mmライフル砲搭載の戦後第1世代主力戦車であり、当時の敵対戦車の砲威力は90から100mm相当。
105mmってのは、戦後第2世代主力戦車の砲である。
1世代前の戦車装甲を貫けない次世代戦車の主砲なんて、存在する筈も無い。

105ミリ砲弾を命中させると、戦車の砲塔は粉々に吹き飛んだ

のを嘆くのは、単に「だから、早く次の新型戦車をよこせ」という話であり、日本戦車の装甲が総じて弱い、と言う話には繋がらない。
更に見当はずれなのが、「戦車の装甲は砲弾をはね返す」という認識。
傾斜装甲が採用されたのが1920年代である。
真っ正面から大口径・大火力の戦車主砲を、素材強度だけで耐えようなんて低能は、約100年前には時代遅れになって居るのだが、この軍事ジャーナリスト()は、未だに第一次世界大戦期の知能しか無いようである。
そんな軍事ジャーナリスト()だから、

その装甲を優先的に装着するのは、戦車ではなく、兵員輸送装甲戦闘車両になるはずだ。戦車の搭載兵器を守ることより、装甲車内の歩兵を守ることの方が戦術上も大切な時代である

http://www.mag2.com/p/news/140969/2

などと意味不明な供述を…(ry
現代の主力戦車の主砲貫通力は、単純な均質圧延鋼装甲(RHA)換算で500から700mmである。
どこの兵員輸送車に、そんだけの分厚い装甲防御を付与している国があるって言うんだろうか。
戦争キチガイ・世界最強の軍事国家の誇る金満アメリカ軍ですら、そんな馬鹿な事はしていない。
結局のところ、兵員輸送用の装甲車両ってのは、軽装甲で防げる対人地雷、榴弾や破片や跳弾から歩兵を守って前線へ送る為の物で、主力戦車の砲弾が飛び交う危険地帯で、前面に押し出して使う車両じゃないのだ。
歩兵を守るのは、適切な戦術運用と戦略であって、マヌケな指揮によって兵員輸送車が最前線に置き去りにされても攻撃に耐えられる装甲を施す事じゃない。
日本の10式戦車に明確な弱点があるとすれば、「小型である事」によるデメリット*1ぐらいなもん。
元々主力戦車が巨大化・重量化した理由ってのは、砲威力の向上と密接に関係がある。
第1世代主力戦車の主砲は90mm
第2世代主力戦車の主砲は105mm
第3世代主力戦車の主砲は120mm
戦車はその世代と共に砲威力を向上させてきた。
砲威力は口径の3乗に比例すると言われており、単純計算すれば、
90mmと105mmでは1.6倍
90mmと120mmでは2.4倍
もの破壊力があることになり、当然だが、その反動も相応の物となる。
現在の主流となって居る第3世代主力戦車で120mm砲搭載50から60トンというのは、120mm砲を十分な安定性と命中力で運用する為に必要な「重さ」でもあったのだ。
現在ドイツやロシアで開発中の140mm砲を運用するなら、純粋に70から80トンもの車重が必要と言われている。
しかし、車重が60トンを越えると、橋梁や高架等の走路を運用できなくなったり、アスファルト路面を耕してズタズタにしてしまうなど、都市部での運用が非常に困難になる事が知られている。
そして、120mm砲の貫通力は、60トン級の戦車では装甲を正面・左右・後ろと上に案分すると、ぶ厚くした正面以外では耐えられない。
結果、実は140mm砲って過大性能じゃね?
という意見が出てきて、日本や中国、フランスなどの国では、火力は120mmを維持しつつ、小型軽量な戦車を開発したのである。
正味の話、矛の威力が極大化している現代戦では「戦車ですら正面以外では、自身の砲で簡単に撃ち抜かれてしまう」のだ。(いわんや、軽装甲車両が耐えられる道理が無い)
だから、C4I機能で戦車同士の連携力を高め、側面攻撃や後背攻撃の危険性を可能な限り低く抑えつつ、自身の攻撃力を最大限に生かす努力をしている訳で、この軍事ジャーナリスト()のように、無邪気に「装甲が硬ければ敵の砲弾をはね返す(キリッ)」みたいな妄言を語れるのは、なんというか日本が平和な証拠なのだなぁ、と思う。

*1:車内住環境が悪い、車内積載砲弾数が少ない、将来の拡張性を担保する空隙が少ない