gayuu_fujinaの愚草記 (別館→本館)

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艦対空ミサイルなぜ垂直発射式が主流に?海自艦艇も続々、そのもっともな理由 | 乗りものニュース

艦対空ミサイルなぜ垂直発射式が主流に?海自艦艇も続々、そのもっともな理由 | 乗りものニュース

対空ミサイルの発射方式を比較すると、古いはたかぜ型護衛艦は艦首の旋回式ランチャー、すなわち、ミサイルを装てんした部分が回転し標的方向を向いてから発射するというもので、最新のまや型護衛艦VLS(垂直発射システム)、すなわちミサイルはまず垂直方向に打ち上がり、ある高度に達したのち標的方向へ向く、というものです。海上自衛隊イージス艦はもれなくVLS搭載で、加えてイージス艦より小さい護衛艦についても、むらさめ型以降の新しい護衛艦では、VLSの搭載が当たり前となりつつあります。
この流れは日本だけでなく、世界的に見ても旋回式ランチャーは数を減らしていて、新造艦の主流はVLS装備となりつつあります。なぜそうなりつつあるのか、実は旋回式ランチャーには、大きな欠点があるからです。
それは、目標に旋回式ランチャーを向けようとした場合、艦上の構造物や僚艦などに遮られてしまうことがある点です。
(中略)
VLSすなわち垂直発射式ならば、発射装置が前にあろうと後ろにあろうと、まずミサイルを上に向けて射出し、その後、向かってくる標的の方向に向けて誘導すればよいので、射撃可能範囲の制限問題はクリアできます。
(中略)
次弾発射までに要する時間も大きく違います。前述のMk13ミサイル発射機の場合、次弾を装填するために、一度、元の位置に戻さなくてはなりません。
(中略)
ミサイルの垂直発射方式は、海の上だけにとどまりません。地対空ミサイルの世界でも主流になりつつあり、日本では陸上自衛隊の「03式中距離地対空誘導弾」が垂直発射式です。
(後略)

https://trafficnews.jp/post/90747

この記事は、VLSのデメリットを記載していないので、ちと不公平かと。
そのデメリットを勘案しても、VLSが有利な点は多々あるので、水上艦でのVLS装備が主流なのは事実なんだけど、使い分けも必要である点は、書くべきだと思う。
少なくとも、「これがあれば、他は要らない」的な勘違いを素人に誘発させる書きっぷりは、宜しくない。
中国人がイージス艦を最強無敵の万能戦艦と勘違いしているのと同じ愚を、犯す必要はないという意味で。
まず、垂直発射するので、目標が「水平方向」に居る場合、方向転舵の時間が必要になるので、水平発射型の投射機に比べて「時間」の優位が薄い。(下手すると旋回時間を加味しても負ける)
そして、記事中に「海の上だけにとどまりません」と言っているが、これは語弊を生みかねない表現だ。
基本は水平方向への目標への投射が主流の地上兵器の内、例外的に「上に向けて発射する地対空ミサイルに限れば」垂直発車式は「無駄」が少ないので、有利になる、という話だからだ。
逆に言うなら、対地攻撃を行う場合、垂直発車式は不向きなので、これからもVLSに置き換えられる可能性は無い。
ついでに、水上艦用でも匍匐飛行でぶっ飛んでくる対艦ミサイルを迎撃する場合、VLSで発射するのでは間に合わないから、旋回式ランチャーのSeaRAMが性能優位になる。
これをVLSで置き換える、という事は無いだろう。
次に、VLSはミサイルの発射失敗時に誘爆ダメージが大きくなる、という問題がある。
もちろん、VLS自身が誘爆に備えて頑丈に作られているのだが、限度がある。*1
対して旋回式ランチャーのミサイルが暴発しても、閉鎖空間のVLSと異なり、爆発力の大半は虚空に逃げるので、比較的ダメージは小さくなる。*2
なお、アメリカは最新のMk57VLSでは従来型のMk41のようにブロック状の集中配置をせず、艦の外殻と内殻の間に配置する周辺配置する事で、誘爆時のダメージを局限化するように考慮されている。
あとは、VLSは貴重な艦内容積を大量に消費する、と言う点。
まず、この特徴がある為、フリゲートコルベットなどの小型艦には不向きである。
これは、明確なデメリットなのだが、艦内に貴重で高価な兵器を格納できる事で、兵器の安定動作や寿命、破損の危険を減らす事も出来る訳で、VLSが搭載できる規模の艦なら、一概にデメリットとは言えない。
対して、重量や重心バランスの許す限り、艦上に設置できる兵装は、貴重な艦内容積を消費しない。
その分を、予備弾薬の保管や別の用途に割り当てる事が出来る。
この点が、VLSは小型艦には不向きな理由となる。
VLSを配備する場合、大型艦であればあるほどに、搭載効率が良くなる傾向があり、9500トンのアーレイ・バークミサイル駆逐艦フライトIIAでMk.41VLSを96セルだが、14500トンのズムウォルト級ミサイル駆逐艦は、Mk.41の倍近い容量を誇るMk.57VLSを80セル搭載している。
1.5倍の排水量で、2倍近いVLS火力を持っている訳だ。*3
そんな特徴を持つVLSが主力兵器になると、かつての大艦巨砲主義が復活するか…と思われたが、現実にはミサイル自体が高価な兵器であり、それを大量に詰め込んだ大型艦ってのは、撃沈された場合の被害が巨大になる、と言う悩みがある為、アメリカはズムウォルト級の増産をやめて、アーレイ・バーク級のフライトIII開発に着手した訳である。
対して、イージス艦は万能無敵戦艦、最新のズムウォルト級は最強無敵!と勘違い*4した中国人は、中華イージスと呼ばれたが、AESAレーダーの性能に疑問符が付いていた蘭州級(旅洋-II型)駆逐艦の増産を6隻で打ち切り、さっさと次の昆明級(旅洋-III型)駆逐艦を開発して大量増産を始めたと思ったら、055型駆逐艦…ズムウォルト級のコピー艦を開発した。
既に8隻建造の予定で、建造打ち切りと言う話は特にない。
僅か3隻で建造が打ち切られたズムウォルト級とは、対照的な話である。
余談だが、上に書いたとおり、アメリカはズムウォルト級用にMk.57VLSを開発し、VLSの弱点克服の為に、船の外周配置にしているのだが、中国は昆明級と055型とで、同じ汎用VLSを搭載しており、アメリカのMk.41同様の集中配置方式を取っている。
つまり、ラッキーヒット一発で誘爆撃沈のリスクが…(∩゚д゚)アーアーきこえなーい

*1:あまり頑丈に作ると重量増で搭載数が減るしので

*2:その分、広範囲にはなるが…

*3:搭載ミサイルの大きさによっては、1セルに4発入るので、差はさらに大きく…

*4:イージス艦は、あくまでも艦隊防空を担う艦である。VLSの中身次第で、対艦・対地攻撃も出来るけどもさぁ…