gayuu_fujinaの愚草記 (別館→本館)

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変則軌道のミサイル迎撃 防衛省が研究へ  :日本経済新聞

変則軌道のミサイル迎撃 防衛省が研究へ  :日本経済新聞

防衛省は2020年度から、北朝鮮弾道ミサイルの性能を上げていることに対応するため、新たな迎撃システムの研究に着手する。陸上自衛隊03式中距離地対空誘導弾(中SAM)を複数年かけ迎撃能力が備わるように改良する。着弾前に急上昇する変則軌道の新型弾道ミサイルに対応できるとみている。
北朝鮮は19年に短距離弾道ミサイルを含む飛翔(ひしょう)体を計13回発射した。防衛省の分析では少なくとも4種類の新型…
(後略)

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54071390W0A100C2PP8000/

極超音速滑空体(Boost-Glide Weapon)は、比較的に単純で物理学的な条件に支配された弾道飛行に寄らず、ある程度の航空力学的な軌道遷移能力を得る事で、弾道飛行するミサイルだけを標的として開発されたMDシステムを無力化する事を目的としている。
…が、運動力学的に最適に近い弾道飛行をしない上に、大気の層を滑空して飛行する極超音速滑空体(Boost-Glide Weapon)は、従来の弾道ミサイルに比べて、速度は低下する、射程は短くなる、制御も難しい…とまあ、実はデメリットも多い兵器であり、中露がアメリカに先行して実用化した、と言う事でアメリカは新たな軍拡の段階に入った訳だが…。
実は、この兵器を最初に研究し始めたのは、アメリカなのだ。
X43と呼ばれる極超音速下のスクラムジェット挙動を研究するための計画で、1996年に発表され、2001年に最初の試験機が、そして2003年に3機目の試験機が飛んで終了した。
後継機のX51は2003年に研究を開始し、2014年には最後の試験機が飛行して、研究を終了している。
そして日本も、HOPE開発の為の技術研究として、HYFLEXと呼ばれる極超音速飛行実験機を1996年に飛ばしている。
…そう、兵器となる前の「極超音速滑空体」の研究は、日米の方がずっと前から研究していたものであり、中国が開発した東風ZF(WU14)やロシアのアバンガルド(Yu74)は、2010年台に研究がスタートして開発された、急造兵器に近い物なのだ。
では、アメリカが先行して研究して居ながら、なぜ中露が先に実用化したか、と言う点を考えると、興味深いというか、単純に言えば「コストを最優先した舐めプ、アメリカ」と「アメリカに追いつく為にコストを度外視した中露」という構図だと思っている。
ソビエト崩壊以降、圧倒的に弱者である中東とかで非対称戦ばかりやっていたアメリカは、ここ四半世紀ほど「コスパの良い安価でそこそこ性能の兵器」ばかり求めて、「大国同士が鎬を削る、効果で高性能な最先端兵器」の研究を縮小してきた。
つまり、従来兵器の延命や、小手先の性能向上に終始し、「次世代の兵器研究」というものを、疎かにしていた訳である。
対して、中露はアメリカの背を追う挑戦者であり、アメリカが足踏みしている隙に、追いつけ追い越せ、と軍拡に、それも対アメリカに的を絞った対抗兵器の研究に大金を投じたのが、2010年代になる。
正に、ウサギとカメの童話の通り、怠けウサギのアメリカは、中露に戦略核兵器分野で遅れを取り、20年近くも先行して居ながら、負けてしまった、と言うのが現在となる。
これ自体は、大失態であっても、致命的ではない。
たった10年ほどの付け焼刃で、たった一分野で先行しているだけの中露に対して、アメリカは他の幅広い分野で勝っているからだ。
アメリカも、大国同士の戦争を視野に入れて、最先端兵器の研究開発を再開すれば良い。
…のだが、アメリカは未だにその動きが鈍い。
その意味で、日本が独自に対抗手段や同等兵器の研究に進むのは、悪い話ではないのだけれど、泥縄だし、この手の研究開発について、民間頼りの防衛省で、本当に大丈夫なのだろうか、という気持ちはある。