gayuu_fujinaの愚草記 (別館→本館)

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レールガンは役立たず?米国ですでに失敗作の烙印 兵器にロマンはいらない、日本も現実的な技術開発を | JBpress(日本ビジネスプレス)

米軍による対中軍事戦略、いわゆる「第3の相殺(オフセット)戦略」(新技術に基づく新たな作戦構想と戦力によって、相手の優位性を無効化する戦略)において、今後レーザー兵器や3Dプリンタなどとともに主要な役割を果たす兵器の1つとされるのが「レールガン」である。これは火薬ではなく電磁誘導で金属弾頭を加速し、撃ち出す兵器であだ。従来の火薬式の砲塔に比べて威力・コストともに抜群の効果を発揮するとされている。
日本でも防衛省技術研究本部が研究を進めており、与党・防衛省内でも3Dプリンタ等に比して大きな期待感を寄せられ盛り上がっているという。実際、8月22日の報道では、平成29年度防衛省の概算要求にレールガンの研究費が盛り込まれると大きく報道された(参考「超速射・レールガン(電磁加速砲)を日本独自で開発へ」産経ニュース)。
だがここにきて米国では、開発の監督責任者である国防副長官がレールガンに事実上の死刑宣告を下すなど様々な課題が出てきている。
(中略)
ワーク氏はカーター国防長官の信任厚く、第3の相殺戦略の監督責任者に指名されている人物である。そのワーク氏が、レールガンとHVPは性能的に変わらない、どちらでもよい、と言っているのだ。
(中略)
この論説によれば、レールガンには2つの大きな課題があるという。
1つは膨大な電力である。レールガンは電磁推進でマッハ6にまで加速し、6秒に1発を連射するので、6秒に1回、膨大な電力(25メガワット)をコンデンサに一気に注入しなければならない。だが例えば主力艦艇のアーレイバーグ級は7.5メガワットしか供給できない。ズムウォルト級はこれを満たすが、あまりに高価すぎるために3隻で建造中止となってしまった。つまり、現行の艦艇にはほとんど搭載できないのだ。
第2の問題は、レールガンが対地攻撃にしか役立たないということだ。なんらかの理由によって地対空ミサイルで迎撃できなかった後に、ようやく出番が回ってくるかもしれないが、最近の技術開発プロジェクトでは従来型の5インチ砲でもHVPを用いてミサイルを迎撃できることが分っているので、レールガンである必然性はないという。
(後略)

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47673

どちらも既知の問題だな。
というか、アメリカの様に従来砲を置き換える方向性での、レールガン開発は自分も正直微妙だと思う。
一方で、小口径・高初速の対空特化したレールガンは、レーザーによる迎撃などに比べると、ずっと実現性や実用性はあるのではないか、と言う思いはある。
日本が開発するのは、後者の方向性らしいし、それなりの実現性はあると考えている。
ただまあ、投入コストに対してメリットがあるかは、別問題と言うか…。
既に実用化されている近接防空ミサイル(RAM)はコストは高いが、防空射程、命中率などで十分な性能を示している現在、コストが安い事以外にメリットの無い対空特化レールガンを開発失敗のリスクを背負って開発するメリットがどれだけあるか、と言う話もある。
ぶっちゃけ、中国辺りは金にモノを言わせて、駆逐艦以上(5000t以上)の艦にはRAM(の中華コピー)をガンガン装備しており、CIWS装備の護衛艦よりよっぽど優秀な個艦防空能力を持っている。*1
CIWSを対空特化レールガンに置き換えたとしても、防御面で優位になるかと言えば、互角になるだけなのだ。
もちろん、長く戦い続けると言う前提だと、同じ性能ならコストが安い方が良い。
RAMは1発数百万から一千万円で、1基辺り9発程度しか装備していないから、それ以上のミサイルを迎撃したければ、RAMを複数搭載する必要がある。
対して対空特化レールガンなら、一発辺りのコストは数万円から十数万円に大幅減となり、撃てる弾数も3桁以上となるだろう。
速射できるなら、RAMのように複数搭載する必要も無い。
しかし、矛(攻撃側)が圧倒的に優勢な現代戦に於いて、「守り続けて長く戦い続ける」という事が難しい。
結果的に、対空特化レールガンは、あれば良いけど、無くても困る程でもない、という結論になってしまう。
その意味では、レールガンという兵器自体がまだ時期尚早である事は事実だと思うが、「失敗作の烙印」ってのは、言い過ぎだと思う。
ただ、記事中で触れられている「在来の砲塔で発射可能な超高速発射弾(HVP)」が、なんというか胡散臭い。
調べてみると、レールガン用の砲弾を従来砲で撃ち出す事で、従来の砲弾の2倍の速度で飛ぶ、と言うのだ。
レールガン用の砲弾ってのは、電磁誘導素材の投射体と砲弾部で構成されており、レール内で加速した後に不要となる投射体は砲弾部から分離する。
HVPも、炸薬から受ける運動エネルギーを受け取る投射体と砲弾部に分かれており、通常の砲弾より軽量に作れる分、速度を上げる事が出来るかも知れない。
しかし、投射体を捨てる分、1発当たりの砲弾が持つ運動エネルギーは減るし、原理上、炸薬の燃焼速度と砲身内の膨張圧以上の速度では、飛ばない。
現代の砲がよっぽど炸薬のエネルギーを無駄遣いしている訳じゃないなら、本当に2倍もの速度差が出るものなのだろうか。
こいつも、なんというか冷戦時代に流行った欺瞞情報の一種なのではないかと、思わなくもない。

*1:海自の護衛艦で個艦防空ミサイルを装備しているのは、あきづき型護衛艦、いずも型護衛艦だけ。一応、対艦ミサイル迎撃には高価すぎる大型艦対空ミサイルは装備しているし、CIWSも装備しているのだが